19世紀後半、産業革命の時代の蒸気船の出現は世界の交易を大きく変えました。帆船では風任せだったので大西洋横断には 40 日ほどかかっていたところを、蒸気船が発明され使われ始めたことで航海の時間は大幅に短くなり、10 日くらいで行けるようになりました。 交易がさらに盛んになり、世の中は便利になっていきました。一方で、航海の時間が短くなったことが原因となってヨーロッパのワイン産業は壊滅的な被害を受けることになります。
フィロキセラは、ぶどうの根に付いて、ぶどうを枯れさせてしまう害虫です。学名で phylloxéra vastatrix(フィロキセラ・ヴァスタトリクス)と表され「破壊者」という意味をもちます。(ちなみに、フィロキセラは日本語ではブドウネアブラムシと呼ばれ、漢字では「葡萄根油虫」と書きます。)元々フィロキセラはアメリカに生息しており、ヨーロッパにはいませんでした。アメリカのぶどうの木は、フィロキセラに対して耐性を持っていたので、被害はなかったのですが、、、
T ヨーロッパの人々は、帆船の時代の時からアメリカからぶどうの苗木を船で輸入していました。目的は品種改良のためです。帆船の時代は、ぶどうの苗木についたフィロキセラがヨーロッパ行きの船に乗ったとしても、長い船旅の間に死んでしまっていました。しかし、蒸気船によって航海の時間が大幅に短くなったことで、フィロキセラが死ぬ前にヨーロッパに着いてしまいます。そして、生きて上陸したフィロキセラは、瞬く間にヨーロッパ全土に広がり、ヨーロッパのワイン産業に壊滅的な被害を与えたのでした。
写真は、フィロキセラがワインをたしなんでいる風刺画で、イギリスの 週刊誌「パンチ」に 1890 年に掲載されたものです。このイラストのコメントには、「フィロキセラこそは本物のグルメ、最高のブドウ園を探し出し最高のブドウにくらいつく」 と書いてあります。