黄熱病とは発熱や黄疸と呼ばれる体が黄色くなってしまう症状を引き起こすことから「黄熱病」と名付けられました。熱帯アフリカや中南米などで多く見られる病気です。黄熱病のウイルスに感染している人を蚊が刺すことによってまず蚊が感染し、そのウイルスに感染した蚊がまた別の人を刺すことによって感染が広がっていきます。1950 年代以降、黄熱病やマラリアを媒介する蚊を駆除するために、感染が広がっている地域には「DDT」と呼ばれる薬剤が大量に散布されました。DDT は、主に農薬、殺虫剤として使われる薬剤です。生物への毒性が強いのはもちろんですが、分解しにくいことでも知られています。
DDT は分解しにくいので、生物が DDT を含んだ食べ物を食べてしまうと、その生物の中に長くとどまり、悪い影響を与えます。鷹は、食物連鎖の上位にいて、寿命も他の生物と比べて長い生き物です。なので、DDT がまかれた地域に住んでいる鷹には DDT の生物濃縮が起こり、卵の殻がすぐ割れやすくなる病気にかかってしまいました。
生物濃縮とは、物質が生態系での食物連鎖を経て生物の体内に濃縮されていく現象です。今回の事例では、DDT を含んだ草 → 虫 → 小動物や小鳥 → 鷹、というように濃縮されていっています。 卵の殻が割れるということは、子孫を残せないということです。DDT が撒かれた地域の鷹の数はどんどん減っていきました。鷹や人体などへの影響を考えて DDT の散布を中止したこともありましたが、そうすると DDT のおかげで減っていた黄熱病、マラリアの感染者数は再び増えてしまいました。
現在では DDT の使用はほとんどの国で規制されていますが、DDT の代わりの殺虫剤を手に入れることが難しい場合は、DDT を使ってよいとしています。DDT に対する耐性を持った蚊もすでに確認されていて、「DDT をまくことは一時的な効果しかないのでは?」という声もあります。
一方を解決したとしても、ほかの悪いことが起こってしまう。この葛藤は日常生活、仕事、人間関係、の中で私たちがいつも感じていることですし、大きな歴史の流れでもあてはまります。