現代では、水を飲むことは良いこととして知られています。1 日2リットル水を飲むと健康に良い、などと聞いたことはあるかと思います。しかし今からたった 200 年ほど前には、水を飲むことに対して抵抗がありました。その理由は、水は安全ではなかったからです。さらに水を飲むことは非常識で、水は健康にも悪いと思われていました。例えば、イギリス人は水嫌いとして世界的に有名でした。水を飲むと皮膚の下に水分がたまり水腫になりやすいという近世の迷信が原因のひとつです。(水が安全ではなかっただったからこのような信念が生まれたのかもしれません)
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18 世紀のイギリス人の医師は、こう言ったそうです。
「人間の頭が地面からはるか上にある理由が今わかった。(水を飲もうと)地面に口を近づけるためには、痛みを伴うたいへんな苦労を強いられるからだ。さらに、口元は平らで鼻が飛び出ているので、水を飲むのは容易ではない。」
そして、17 世紀のスペインの植物学者は
「私の国では、水を飲むのは病人とニワトリだけだ」
と言ったそうです。当時は、水を飲む人は、変わり者として社会からはじき出される危険がありました。多くの人は喉が渇いても、なるべく水を飲まないでアルコール飲料などで喉を潤していました。
そんな中でも、近代になってくると科学者たちによって、徐々に水が健康に良いということが解明されつつありました。 科学者たちは、なんとか水を飲むことを人々に普及させるために水に味を付けることを考えつきました。そうして生まれたのが水に炭酸を加えた炭酸水です。
水を飲むことを説得する活動を行なったのは、科学者だけではありませんでした。 科学者たちの研究や技術のおかげで、安全な水が確保しやすくなると、水は危険なのでアルコール飲料を飲むということは通用しなくなります。このことによって、人々の間で昔から行なわれていた禁酒運動がさらに活発になりました。彼らは人々がアルコールに溺れて社会が崩壊するのを食い止めようとしましました。
ヨーロッパやアメリカでは、禁酒運動家たちが『水が健康に良いという歌』を歌いながら、町や村を行進しました。その影響もあり、アメリカでは 1920 年から 1933 年まで、禁酒法が制定されました。禁酒法の時に多くのパブで酒の代わりに炭酸水を出したことにより、炭酸水が広く飲まれるようになりました。科学者と禁酒運動家のどちらか一方でも欠けていたら、今のように水を飲む人は増えていなかったかもしれません。