家事使用人のジェンダー変遷:女性が中心となった背景
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家事使用人のジェンダー変遷:女性が中心となった背景

2023/4/4

家事使用人といえば、制服姿の女性(メイド)を思い浮かべる方が多いと思います。しかし、イギリスにおいて元々は、家事使用人は女性であったわけではありませんでした。 女性が圧倒的に多くなったのは、19 世紀の現象です。なぜ家事使用人は女性化したのでしょうか?

とくに上流家庭では、工業化以前の時代は台所を中心とした家事においても男性の家事使用人の方が多かったそうです。男性の家事使用人はボーイと呼ばれます。男子の使用人が減少した理由はいくつかありますが、大きな理由は工業化の発展にしたがって都市部での産業で男子労働者が必要になったからです。男子使用人の雇用に対してのみ税金がかけられたり、男子使用人の賃金が上昇したため、19 世紀より、安く雇えてしかも従順な女子労働者が家事奉公をほぼ独占するようになりました。

「階段の下」の労働生活は決して楽なもので なく、とくに 1 人で何でもやる雑働き女中な どは、1 日 17 時間も牛馬のように働かされた。 しかし、家事奉公は労働者階級の女性にとって「リスペクタブル」 な(上品な) 働き口とみなされた。主家の家庭のなかで監督されて働くからである。それに、農村出身の少女には、将来の結婚に向けての良い訓練になると考えられたようである。

-- 朝日百科世界の歴史 19 世紀

ところが、第一次世界大戦の影響で、女性のメイドは減少しました。男子が戦争に行ってしまったため工場での人手が足りなくなり、女性が工場の仕事についたからです。工業化の時の男子と同じことが女子にも起こりました。この流れから女子労働者にとっても、産業労働者が「一人前の」 労働者であり、家事奉公は劣ったものと考えられるようになりました。価値観の転換が起こったのです。そして終戦後も、多くの女性が家事奉公を離れて他の職業に移っていき、その結果、 家事使用人の数が急速に減少しました。家事使用人の質金を上げても、家事使用人の減少に歯止めはかかりませんでした。家事使用人という職業はもはや、都市の産業において女性に新しく開かれた職種(事務員、店員などのホワイトカラー的な職種)には勝てませんでした。ちなみに、家事使用人の数が減ったしまったため、それまで遅れていた 「家事の機械化」が進むことになります。

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