1920 年代は、アメリカでカタログによる通信販売業がもっとも盛り上がった時代です。アメリカ中に大量のカタログが配布され、人々はカタログを見て注文票を返送し、商品を受け取りました。当時、カタログは『Great・Wish・Book(願いの叶う夢の本)』『farmer's Bible(農民のバイブル)』『a department store in a book(本の中のデパート)』などと呼ばれていました。 そして、子ども達にとっては絵本であり、読み書きを覚えたり世界を知るための教科書でもありました。このシアーズ・ローバック社のカタログは 1056 ページあります。
この時代、農業中心だったアメリカには広大な大地に多くの農民が暮らしていました。鉄道や車はまだ普及しはじめた頃で、交通手段が発展しておらず、主な移動手段は馬や馬車でした。 なので地方に住む農民は都市部に出るのも大変で、地元の小売商が不当に高い値段を付けても渋々買わざるを得ませんでした。彼らには不満が溜まっていました。アメリカは国土がとても広いので、アメリカにおける地方の感覚は、日本における地方の感覚より何倍も離れていると思います。 そこに目を付けたのが通信販売業者でした。 シアーズ・ローバック社やモンゴメリーウォード社などは、当時流通の中心地であったシカゴに巨大な倉庫と郵便局を建て、人々にカタログを郵送しました。
品物を一括で仕入れることによって、消費者に安く商品を届けることができました。 通信販売業者は「ライバルがいなくてやりたい放題な商人などの仲介者から、農民の利益を守ります!」と訴え、消費者の心を掴みました(通信販売業も仲介業ですけどね笑)。カタログに書いている値段以上の請求はされないので、ぼったくり商人から買うより安く購入することができたことは事実です。カタログには「満足していただけれなければ返金いたします」とも書かれていました。この時代から返金保証があったのですね。こうした通信販売によって田舎の人々が都会の文化に触れられるようになりました。
1900 年代初めに、シアーズ・ローバック社、モンゴメリーウォード社は通信販売以外にもデパート、スーパーなどの小売り業に進出しました。シアーズは、一時期はウォルマートと並んで米国を代表する小売りチェーンとなりましたが、ネット通販の広がりや安い店の増加により、経営不振に陥り、2018 年に経営破綻を申請しました。モンゴメリーウォード社も 2000 年に破産、解体されました。一世を風靡し成功を収めた企業も急激な時代の流れにはついて行けなかったのでしょうか。 もしくは成功してしまったからこそ、変化を恐れ、時代の流れに取り残されたのかもしれません。