表紙の写真は 1890 年頃のイギリス、ブライトンの海水浴場の様子です。交通手段が発達していない時代では、旅行は貴族、ジェントリー階級や地主、都市の裕福な商工業者の特権でした。
裕福な人々にとっては、移動、旅行は生活に欠かせない一部だったと言えます。イギリスでは、全国に領土を持つ貴族、ジェントリーは、互いに舞踏会などに招待しあい、各地を移動していました。旅行は貴族社会のまとまりを強め、有力者と人脈を作り、結婚相手を探すための、彼らにとっての「仕事」でした。
リゾート地はこういった貴族たちの社交の場として開拓されていきました。しかし、鉄道などの発達によって民衆に開放されていきます。ブライトンは貴族たちの海岸リゾート地でしたが、1841 年、ロンドン=ブライトン鉄道が開通し、2つの都市間の所要時間は 2 時間にまで短縮されました。さらに料金も値下げされていったことにより、ブライトンには一般の行楽客が殺到するようになりました。
マーゲートは、18 世紀にはテムズ川を下って行楽客を運ぶっ定期船が運航しており、1820 年頃には蒸気船が就航していました。マーゲートは、このアクセスの便利さで大人気でした。
庶民が行楽地に集まるようになったことで、リゾート地の大衆化を嫌ったイギリスの上流階級の人々は、コーンウォールなどの大都市から遠い人知れないリゾート地を開拓しました。また、フランスのニース、カンヌ、イタリアのサン・レモなどの、海を渡った大陸のリゾート地にも訪れました。
都市に住む人々は行楽地に行っても、他人に見られることを意識するあまり、パーティーに行くようなきちっとした正装に身を包んでいることが多かったようです。写真や絵を見ても、カジュアルでリラックスした雰囲気よりも緊張さがうかがえます。休暇は、幸せや裕福さをアピールする自慢大会みたいな側面もあったようです。